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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)3804号 判決 1977年3月25日

原告(反訴被告) 堀川頼之

右訴訟代理人弁護士 堀川多門

被告(反訴原告) 昭和牛乳株式会社

右代表者代表取締役 西形勝蔵

右訴訟代理人弁護士 石井成一

同 小沢優一

同 小田木毅

同 細谷義徳

同 桜井修平

主文

一  原告(反訴被告)の本訴請求を棄却する。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、東京都多摩市貝取一〇号八三一番の一所在の被告(反訴原告)多摩工場内に設置されている別紙物件目録(一)記載の物件を撤去せよ。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じ、原告(反訴被告)の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告、以下「被告」という)は、原告に対し、金四〇〇万円およびこれに対する昭和四七年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  主文第一項と同旨。

2  訴訟費用は原告(反訴被告、以下「原告」という)の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  主文第二項と同旨。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の反訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

《以下事実省略》

理由

第一本訴について

一  被告が乳製品の製造販売等を業とする会社であること、角田昭一が昭和四七年四月一八日、被告に対して本件物件を代金四〇〇万円で売り渡す契約をしたこと、角田が同年五月一二日、本件物件を被告多摩工場内に設置し、試運転をしたこと、同年七月六日、原、被告および角田は、原告が角田の前記契約上の権利義務一切を承継し、角田は同契約上の権利義務を放棄する旨の契約を締結したことは当事者間に争いがない。

二  ところで、本件物件は牛乳瓶を高水圧で洗滌する装置であるが、被告はその性能について抗弁1で主張するとおりの約定があったとするので判断する。

《証拠省略》によれば、原告は瓶内異物排除装置などの洗滌機を製作する大進工業株式会社の役員、角田は同社の従業員であったが共に昭和四七年二月同社を辞めたこと、その後角田が角田製作所として洗滌機の製作業をはじめ、同年三月頃角田と原告が大進工業の社長の紹介で被告に瓶内異物排除装置の売り込みをしたこと、その際持参した図面(乙第一号証)を被告側に示して右装置の説明をしたこと、被告側は被告の製造課長であった三井龍生が主としてその交渉にあたったこと、契約締結に際しては、角田と原告が作成した見積書(甲第二号証)に従って被告が申込をなし、角田がそれを承諾したことが、それぞれ認められる。

《証拠省略》によれば、三井は右交渉において原告らから示された乙第一号証に「木箱保護用プロテクター自動送り装置」「微調整及木箱寸法変更調整用装置付」と記載されていたことおよび原告らの説明から、丸瓶二〇本入、同四五本入、八角瓶二〇本入、同四五本入の四種類の牛乳瓶用の木箱を自動的に保護することのできる装置が完成したものと考えて本件物件の購入を決意したこと、従って、同人は、原告らが当初作成した見積書(甲第一号証、ただし青インクによる加筆部分を除く)に「木箱保護装置付」と記載されていた箇所、原告らが作成した最終見積書(甲第二号証)に「二〇本、四五本及丸と八角兼用型」と記載されていた箇所は、いずれも前記の趣旨を述べたものと考え、甲第二号証に従って注文書を作成し、本件契約締結に至ったことが、それぞれ認められる。《証拠判断省略》

一方、《証拠省略》によれば、本件物件に木箱保護装置を付する約定がなされたこと、しかるに本件物件の設置後、その保護装置は全く不十分なものであったことは、いずれも認定でき(る。)《証拠判断省略》しかし、《証拠省略》によれば、原告は被告の望むような四種兼用の完全自動の木箱保護装置の作成は技術的に無理だと考えていたこと、当初から原告が考えていた保護装置は右のような装置に比してごく簡単なものであることが、それぞれ認められ、この事実に照らして考えると、前記認定事実から被告主張の完全自動の四種類兼用型木箱保護装置を付ける旨の約定が被告と角田の間でなされたとの事実を推認することはむずかしく、この点に関する《証拠省略》は信用できない。

しかし、本件契約において、被告と角田の表示行為は完全に合致しているので、契約は有効に成立したものと解すべきであるが、その意味内容は、意思表示を客観的に判断して決定されるべきであり、この見地から検討を加えると、《証拠省略》によれば、瓶内異物排除装置は、販売先などから回収された牛乳瓶を洗滌するに先立って、牛乳瓶に付着した牛乳キャップ、煙草のヤニ、吸がら等の荒ごみを空瓶を木箱に入れたまま噴射ノーズルから噴出する水流で除去するものであり、木箱保護装置というのは右水圧から木箱を保護するものであること、瓶内異物排除装置の圧水の圧力は一五〇キログラム毎平方センチメートルが最適であること、右圧力によると木箱保護装置の付いていない場合には、一回の操作だけでも水圧によって木箱に相当の傷がつき、場合によっては使用に耐えない程度にまで達し、数回の操作で到底使用に耐えなくなること(水道の蛇口の圧力は二キログラム毎平方センチメートル位であり、一五〇キロの水圧は指を切断する程の威力を有していること)、牛乳の製造販売業者にとっては、木箱は相当のコストがかかる(本件契約当時で単位は四~五〇〇円であり、本訴被告は一日一万数千ケース出荷していた)と同時に資産でもあり、また運送会社や末端販売店で荷下ろしの際とげなどによる事故のないように配慮する必要のあること、従って、牛乳の製造販売業者にとっては、木箱保護装置の付かない瓶内異物排除装置は全く無意味であり、昭和四七年頃には瓶内異物排除装置といえばとくに言及しなくても木箱保護装置付のものが考えられていたこと、プラスチック製の箱でも保護装置をつけるべきだと考えられているだけでなく、本件契約当時の被告多摩工場ではほとんどが木箱であり、原告もそれを認識していたこと、昭和四六年には箱のサイズが若干違っていても兼用できる自動保護装置付瓶内異物排除装置が商品化されていたこと、その装置では箱を規則正しく整然と並べなくても機械の方で自動的に操作されるようになっていたこと、その装置の価格は昭和四六年暮当時で四〇〇万円前後であったことが、それぞれ認められる。《証拠判断省略》以上の事実によれば、本件契約においては、客観的にみて被告の主張するような四種類の木箱に兼用できる自動木箱保護装置を付する約定があったものと解することが妥当である。

次に、《証拠省略》によれば、原告は、昭和四七年七月六日、被告に対し、本件物件に前記性能を装置してその設置を同年七月二五日限りとすること、原告が右義務を履行しない場合には別紙物件目録(二)記載のコンプレッサーを金七〇万円で売渡し、残余の装置を搬出する旨求められても異議を申し立てないことを約した事実ならびに原告が右のとおり約する以前に、被告が角田および原告に対し、前記性能を有する装置を設置するよう再三求めていた事実が、それぞれ認められ(る。)《証拠判断省略》

そして、原告が本件物件に前記性能を有する装置を備えなかったため被告が、昭和四八年九月五日の第四回本件口頭弁論期日において、原告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは、訴訟上明らかである。

第二反訴について

すでに本訴で認定したところによると、反訴請求原因事実をすべて認めることができ、反訴抗弁事実は当事者間に争いがない。

そこで反訴再抗弁について判断するに、被告が本件物件の設置について基礎工事を行なったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、その工事内容は高圧配管工事、電気配線工事、コンベア設置工事であり、被告主張どおりの費用合計金九〇万八六七〇円を支出したことが認められこれに反する証拠はなく、これは被告が蒙った損害であるというべきところ、被告が昭和四九年五月二三日の第一〇回本件口頭弁論期日において右損害賠償請求権をもって原告の有するコンプレッサー代金債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは訴訟上明らかである。

第三結論

以上に認定したところによると、原告の被告に対する本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却し、被告の原告に対する反訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言の申立については相当でないからこれを却下することとして主文のとおり判決する。

(裁判官 井筒宏成)

<以下省略>

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